旦那様が外出するということは彼も仕事なのか。
それは大変そうだ。
「では、いってくる」
「い、いってらっしゃいませ、……旦那、様」
「可愛い!」
私が送り出す言葉を口にした途端、旦那様がいきなり抱きついてきた。
「聞いたか、菰野。
旦那様だぞ、旦那様。
あー、もー、このまま朝まで涼音を可愛がりたい」
予測不能な出来事で硬直している私をよそに、旦那様はすりすりと頬ずりしてくる。
「はいはい。
いいから行きますよー」
おざなりな返事をし、菰野さんは旦那様の軍服の後ろ襟を掴んで力任せに私から引き剥がした。
「涼音ー」
「ああもう、うるさい、うるさい」
名残惜しそうに名を呼び、まだ私に抱きつこうとでもいうのか手を前に出しながら、旦那様は菰野さんにずるずると引きずられていった。
「えっ、と」
ひとりになり、急にあたりが静まりかえる。
それだけ彼が騒がしいのだと気づいた。
「……寝よう」
きっと眠れば、朝目覚めたときにはあの狭い納戸に戻っているに違いない。
それとも、あの世か。
あの世で母に会えるのならばいいが、あの納戸だったら私は――。
それは大変そうだ。
「では、いってくる」
「い、いってらっしゃいませ、……旦那、様」
「可愛い!」
私が送り出す言葉を口にした途端、旦那様がいきなり抱きついてきた。
「聞いたか、菰野。
旦那様だぞ、旦那様。
あー、もー、このまま朝まで涼音を可愛がりたい」
予測不能な出来事で硬直している私をよそに、旦那様はすりすりと頬ずりしてくる。
「はいはい。
いいから行きますよー」
おざなりな返事をし、菰野さんは旦那様の軍服の後ろ襟を掴んで力任せに私から引き剥がした。
「涼音ー」
「ああもう、うるさい、うるさい」
名残惜しそうに名を呼び、まだ私に抱きつこうとでもいうのか手を前に出しながら、旦那様は菰野さんにずるずると引きずられていった。
「えっ、と」
ひとりになり、急にあたりが静まりかえる。
それだけ彼が騒がしいのだと気づいた。
「……寝よう」
きっと眠れば、朝目覚めたときにはあの狭い納戸に戻っているに違いない。
それとも、あの世か。
あの世で母に会えるのならばいいが、あの納戸だったら私は――。



