幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

ふたりはちらちらと私を見ながらこそこそと話しているが、丸聞こえだ。
私としては女中さんのお下がりをくれなどと無心する時点で、分が過ぎていて怒鳴られないかと戦々恐々としていたが、どうも違うところで問題になっているようだ。

「ひとつ聞くが。
涼音は蒿里家の長女なんだよな?」

言いづらそうに旦那様に確認され、ようやく彼の誤解に気づいた。

「確かに私は長女ですが、無能ですのでお情けで家に置いていただいている身です」

「はぁーっ」

ふたりの口から大きなため息が落ちていく。

「また無能か」

「あー、やだやだ。
貴族の異能至上主義」

旦那様は呆れ気味だし、菰野さんは本当に嫌そうだ。
しかし、菰野さんは名門貴族で構成される異能特殊部隊の隊員なんだし、その貴族なのでは?

「あれですか、無能の娘を虐げていたとかですか」

菰野さんの声はどこか、侮蔑を含んでいるように感じた。

「きっと、そうだな。
だからこの手なんだろう」

旦那様の両手が、しもやけで腫れ、あかぎれもできている醜い私の手を取る。
反射的に引っ込めようとしたが、できないように強く握られた。