幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

じっと座っている私に彼が怪訝そうな視線を向ける。

「あの、その」

ごく稀に紫乃からお茶に呼ばれることがあったが、テーブルの上のものに手をつけると烈火のごとく怒られた。
私の役目はただ黙って、彼女の自慢話を聞くだけ。
テーブルの上のものには決して、手をつけてはいけない。
私が食べていいのは皆の夕餉の準備が済んだあと、鍋の底に残っているものだけだった。

「ビスケットは嫌いか」

眉を寄せ、不安そうに聞いてくる旦那様が意外だった。
こんな感情をあの日から向けられたことがなく、困ってしまう。

「いえ、その。
……いただきます」

おそるおそる伸ばした手は、緊張からぶるぶると細かく震えていた。
そろりと遠慮がちにひとつ摘まみ、口へ入れる。
口の中でそれはほろりと崩れ、優しい甘さが広がった。

「美味しい、です」

こんな美味しいものを食べたのはいつぶりだろう。
遠い昔、母がまだ生きていた頃だ。

「そうか、よかった」

私の感想を聞き、本当に嬉しそうに旦那様が笑う。
それが不思議だった。

「では、今度は涼音が自己紹介してくれ」