連れてこられたのは西洋風の大きなお屋敷だった。

「立派な家……」

人に使役されている鬼だから、もっとこう檻とかそんなものに入れられているのかと思っていた。
いや、ここがご主人様のお屋敷で、白珱――旦那様が住んでいるのはその中にある檻とかもありうる。
もっとも、今まで寝起きしていた納戸が檻に変わったところでなにも不都合はない。
いや、檻のほうが布団を引けばいっぱいの納戸よりも広いかもしれない。

「なにぽやっとしている。
こっちだ」

手を掴まれたが反射的に振り払っていた。
私の汚い手を、知られるのが嫌だった。
しかしすぐに、こんな反抗的な態度を取って怒鳴られるんじゃないかと思い、身がまえる。

「ほら、こい」

しかし彼は一瞬固まったものの、次の瞬間は何事もなかったかのように私の背中を軽く押し、来るように促してきた。

……怒らないんだ。

それが酷く不思議だった。

使役されている身分なのに、正面玄関から旦那様は入っていく。
中には上がり框などなく、土足だった。
彼は堂々としていたが、私は咎められるんじゃないかとびくびく辺りをうかがっていた。