しかし、ならば昨晩、なんで私に噛みついたりしたんだろう。

「特にお前は喰ったりしない。
こんなにいい匂いがするのに、喰っていっぺんにダメにするのはもったいないからな」

「ひっ」

鬼ににおいを嗅がれ、また悲鳴が漏れた。

「どーでもいいですが、自己紹介してあげないと可哀想でしょうが。
こんな、人攫いみたいに連れてきて」

「ああ、そうだな」

若い軍人に注意され、ようやく鬼は私から顔を話した。

「やつがれは白珱。
公通に使役されている鬼だ。
こっちはやつがれの下僕の菰野(こもの)

「違いますよ、あんたの散歩係です」

すかさず若い軍人――菰野さんが訂正してくる。
しかし、散歩係とは?

「えと……」

「いわゆるお目付役です。
この人が勝手に、なんかしないように。
まあ、主人に頼まれて飼い犬の散歩をしているようなものなんで、散歩係です」

「は、はあ……?」

あっけらかんと菰野さんはいってきたが、ちょっと理解が追いつかない。

「で、お前は今日からやつがれの嫁というわけだ」

なにかの冗談かと思っていたが、鬼――白珱様は私を嫁と言った。
けれどまだ、信じられない。