「それにしても誰も挨拶に出てこないなんて、失礼な家だな、おい」

「それだけあなたが嫌われているってことでしょ」

私が手に持っていた風呂敷包みを取り、若い軍人はため息をつきながらついてきた。
表には車が停めてあり、後部座席へ放り込むように乗せられる。
すぐに若い軍人が運転席に座り、車を出した。
車なんて贅沢なと思ったが、名門貴族で構成される特別部隊だ、車くらいあってもおかしくない。

「昨日も思ったがお前、軽いなー。
骨と皮ばかりで食い出がなさそうだ」

「ひっ」

鬼が私の顔に触れ、鋭い爪が頬に当たる。
おかげで、悲鳴が漏れた。

「た、食べないで……」

私が身を小さく丸めてガタガタ震えだし、鬼と若い軍人はなぜか顔を見あわせている。

「あんた、食べられると思われてますよ」

おかしそうに若い軍人がくすくすと笑い出し、わけがわからない。

「あのな」

鬼は困ったように頭を掻いている。

「やつがれは人など喰わん。
これは公通(ひろみち)に使役されているから喰えないわけではなく、生まれてこの方、人など喰ったことがない」

「ほんとに……?」