父が起こした反乱――『春の雪事件』は首謀者である父の逮捕であっけなく幕を閉じた。
反乱軍が一時占拠した施設では多数の死傷者が出たそうだが、帝都ホテルでの死者は少なく、怪我人に至ってはゼロだったそうだ。
それもこれも私の異能の力だと言われても信じられない。

「本当に私なんでしょうか……?」

今日は功労者である私を労いたいと綱木長官に言われ、異能特別部隊の本部へ来ていた。

「そう。
きっと抑圧された環境で育って、力が抑え込まれていたんだろうね。
それが危機的状況になって解放されたってわけ」

お茶を飲みながら軽い調子で綱木長官が説明してくれる。

「お前は荒療治のつもりだったのかもしれぬが、涼音はほとんど死んでおったのだぞ!
あのまま本当に死んでおったらどうするつもりだったのだ!」

私を庇うように抱きしめ、旦那様が猛獣のように長官を威嚇する。
旦那様の言うとおりあのとき、私はほぼ死んでいた。
だって川の向こうのお花畑に亡き母が迎えに来ていたのだ。
ざぶざぶと川を渡ってもう少しで母の手に指が届くという瞬間に、旦那様の声が聞こえてこちらへ引き戻された。