それにしても過去に欠損した部分までも再生させる治癒能力など聞いたことがない。
涼音は無能などではない、――史上類を見ないほどの異能の持ち主だ。

「じゃあ、首謀者の蒿里伯爵も捕まえたし、一件落着ってことで。
あーあ、疲れたからケーキが食べたいなー」

「待て」

緩い感じですべてをうやむやにし、去っていこうとする公通を止める。

「蒿里家の人間は皆殺しじゃなかったのか」

昨日、はっきりとあやつはそう言った。
それにホテルに踏み込む際、隊員に殲滅を命じた。
やはり殺すというのなら、奴と一戦交えるまでだ。
今なら絶対に、涼音を守り切れる。

「そんなこと言ったっけ?
忘れちゃったよ。
私は疲れたから早く帰って休みたいんだ。
邪魔するならお仕置きだよ」

わざとらしくあくびをし、今度こそ去っていく公通を呆然と見送った。

「あの、旦那様。
私……」

涼音自身、自分が生きているのが信じられないのだろう。
完全に困惑していた。

「涼音は死なず、すべては丸く収まった。
それでいいではないか」

不安にさせないように笑い、破れている服で血だらけの彼女の顔を拭ってやる。