幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

しかし、理解の及ばぬことばかりで頭は混乱していた。

「涼音さんには治癒の異能があるようだね」

声が聞こえてそちらを見ると公通がサーベルを振るうところだった。
ついていたであろう血が、それで周囲に飛び散る。
その向こうに彼に切り捨てられたであろう蒿里伯爵の姿が見えた。
が、確かに切られたように服は破れているのに、傷が見当たらない。

「公通……!」

涼音をしっかりと抱きしめ、牙をむき出しにして威嚇した。
力が満ちあふれている。
両の角がそろい、完全体になったやつがれならあやつに後れは取らない。

「そう警戒しないでよ。
本気で殺すつもりなんてなかったんだからさ」

にぱっと奴は人なつっこい顔で笑うが、信じられるものか。
それに真名を使ってやつがれに涼音を殺すように命じたのは紛れもない事実だ。

「荒療治だよ、荒療治。
おかげで秘められた異能が開花しただろ」

じっと自分でつけた傷さえ消えた腕を見る。
これは涼音の力なのか。
治癒の異能など珍しい。
過去にも持つものはそういないはず。

「旦那様……?」

不安そうな彼女に安心させるように微笑みかける。