幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

やつがれの腕の中でぜーぜーと荒い息をしていた涼音だが、次第にそれが穏やかなものへと変わっていった。
それにつれて暖かな光が涼音の身体を包む。

「なんだ、これは……」

光はどんどん広がっていき、触れた端から蒿里伯爵が消し炭にした木々が芽吹き咲き乱れていく。
帝都ホテルを完全に包んだところでゆっくりと光は弱くなっていき、消えた。
まさしく春爛漫といった庭だけが取り残される。

「……旦那、様」

弱々しいけれどはっきりと涼音の声が聞こえ、顔を見ると僅かに微笑んでいた。

「涼音……!」

抱きしめた彼女の背中には傷がない。
身体を離して確認したがやつがれの手が貫通した穴がどこにもなく、綺麗に治っていた。

「嘘……だろ……」

確かにやつがれの血には治癒効果があるが、あれほどの大怪我がこんな一瞬で治るほどではない。
いったい、なにが起こっているのだ?

「旦那様、角が……」

彼女がやつがれの額へと手を伸ばす。
残っていた角までもとうとう折れたのかと心配したが、そこには折れていた左角が――生えていた。

「どういうことだ?」

涼音が助かったのは単純に嬉しい。