幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

意思とは関係なく、右の肘が勢いをつけるように大きく引かれた。

「私は旦那様の妻になれて……」

反動をつけてやつがれの手が涼音へと突き出される。
その手は深々と彼女の胸に突き刺さり、背中まで貫いた。
腕を伝う、温かい血がおぞましい。

「幸せ、でした……」

ごぼりと嫌な音を立てて涼音が血を吐き、身体から力が抜ける。
無情にもやつがれの手が抜き去られ、涼音の身体が崩れ落ちた。

「涼音……!」

ようやく自由になった身体で涼音を抱きしめる。
胸の傷からは止めどなく血が流れていっていた。

「死ぬな、涼音。
死ぬな……!」

必死にどうすればいいのか考えるが、混乱する頭ではなにも思いつかない。
涼音の血が地面にシミを広げていった。
頬に触れた彼女の手を、この命を逃しまいと必死に掴む。

「……もっ、もっ」

なにか言いたげな彼女の言葉を聞き逃しまいと、その口もとへと耳を寄せる。

「……だ、ん……」

するりと彼女の手が、やつがれの手の中から滑り落ちていった。

「涼音?
涼音!」

呼びかけるがもう、反応がない。
涼音が死んだ?
そんな、まさか。
まだ、まだなにかあるはずだ。