幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

そんなのできない。
できようはずがない。
公通が涼音を殺したいのなら殺せばいい。
使役されているやつがれはただそれを黙って見守り、涼音の亡骸を抱いて慟哭するしかできないのはわかっている。
けれどわざわざ、やつがれに手を下させるな。
そんな苦しみをやつがれに与えるな。
けれどそれが、公通の目的なのだろう。
やつがれに涼音を殺させるために今日、涼音をここへ行かせた。

「百珱」

公通が真名でやつがれを呼び、身体がびくりと固まった。

「涼音を、殺せ」

「あ……あ……」

自らの意思とは関係なく、勝手に命令に従って動こうとする身体を押さえ込む。
しかし公通の言霊は強く、身体は涼音へと近づいていった。

「涼音……嫌だ、嫌だ」

唯一自由な感情が、やつがれの目から涙を流させる。
いや、やつがれを絶望させるために公通が意思だけを残したのか。

「旦那様……」

逃がさぬようにやつがれの左手が涼音の肩を掴む。
彼女はもうすぐやつがれに殺されるとわかっているのに、微笑んでいた。

「嫌だ、涼音。
殺したくない」

やつがれなどかまわず、逃げてくれ。
そう願うのに涼音は動かない。