前に置かれた鏡には、くっきりと咬み傷が映っていた。

「どこでこんなもの、つけてきたのよ」

呆れ気味にため息を落としながら、紫乃が私に襦袢を着せていく。

「帰りが遅いと思ったら、どこぞで男と遊んでたの?
ああ、イヤラシい」

俯いて唇を噛みしめた。
男となど遊んでいない。
もう店が閉まる時間に遣いに出され、大変だっただけだ。
あんな時間に町を駆け回ったせいであんな……あんな?
あれは夢だと思っていたが、実際にあったんだろうか。
この傷が証明している。

「お姉さまが生娘じゃないと知ったら白珱様、激怒して殺しちゃうかもね」

ころころとおかしそうに紫乃が笑い、ぞっとした。

私に着物を着せ、小物はどれにしようかと紫乃は悩んでいる。
派手な着物は地味な私にはまったく似合っていなかった。
先ほどまで着ていた山鳩色の着物ほうがマシではないかと思うほどだ。

小物を決めた紫乃が私へ帯を締めていく。

「お姉さま、細すぎて帯が余っちゃう」

うらやましそうに紫乃はため息をついた。

「こんなにガリガリだと食べるところがなくて白珱様、がっかりしちゃうかも」