「きゃっ!」

「おっと!」

人にぶつかり、尻餅をついてしまう。

「あ……」

おそるおそる見上げた相手は、天を突くほど大きく見えた。

「大丈夫か?」

「ひっ」

思わず悲鳴を上げ、頭を抱えて小さくなる。

「すみません、すみません。
申し訳ありません」

きっと怒鳴られる。
もしかしたら殴られるかもしれない。
怖くて怖くて堪らなかった。

「なんでコイツ、こんなに怯えてるんだ?」

「そりゃ、あんたが怖いからでしょ」

呆れるような別の声が聞こえてきて、あたりが少し明るくなった。

「心外な。
やつがれは気に入らない人間以外には優しいぞ」

「はいはい」

「おい」

さきほどまではるか頭上で会話がされていたのに、急にすぐ傍で声がして驚いた。

「ひっ」

おかげで勝手に、私の口から悲鳴が出る。

「こんなところでなにしてるんだ?
最近、人攫いが出るの、知らないのか」

目の前にしゃがんでいる男は、サーベルを下げた軍服姿だった。
しかし軍人らしからぬもっさりとした長い白髪で、目は血のように赤く輝いている。
さらに口もとからは牙がのぞいていた。