幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

「でもまあ、あやつの名代としていくのだ。
蒿里の家の者も下手に涼音に手を出せまいて」

私の不安を取り除くように、旦那様がにやっと笑ってみせる。

「そ、そうですよね!」

旦那様の言うとおり、私は綱木長官の名代としていくのだ。
私になにかすれば彼になにかしたのも同じ。
そうそう簡単に、なにかできようはずがない。
そう気づき、少しだけ気が楽になった。

「では、武運を祈る」

「武運って戦いに行くわけじゃないんですから」

笑って旦那様から額に口づけをもらう。
彼に見送られ、幸せな気持ちで家を出た。
――でも私は。
これから向かう場所が文字どおり戦場だなんて知らなかった。

会場となる帝都ホテルまでは菰野さんが車で送ってくれた。

「今はこっちのほうが立場が上ですからね。
無能だなんだといびってきたら、ガツンと言ってやったらいいですよ」

「そうですね」

菰野さんなりに元気づけてくれるのが嬉しい。
今日は裏は使わず、三十分ほどかけて会場へ向かった。

「じゃ、終わる頃に迎えに来ます。
頑張って」

「はい。
よろしくお願いします」

力づけるように握りこぶしを作った手を菰野さんが上げるので、笑って車を降りた。

「あ……」