ひたすら畳に額を擦りつけ、懇願する。
殺されに行けなんて惨すぎる。

「もう決まったことだ。
それに、お前を差し出さねば我が家にまで害が及ぶ」

冷たく父が言い放つ。
私よりも家が大事。
わかっていたけれど、ショックが大きかった。

「午後には迎えに来るとのことだ。
準備をしなさい」

「……はい」

諦めの気持ちで畳の目を見つめた。
もうこれは決定事項なのだ。
私がいくら懇願したところで覆らない。
それに無能の私を置き、ここまで育ててもらった恩もあるので拒否できなかった。

「しかし」

父の言葉で若干の希望が湧き、頭が上がる。

「その着物で嫁に出すわけにはいかないな。
紫乃、お前の着物を一枚、涼音(すずね)に譲ってやりなさい」

けれど期待した言葉ではなく、すぐに失望へと変わっていった。

「えー、いやよぅ、お父さまー」

本当に嫌そうに紫乃は父に抗議する。

「わがままを言うな。
代わりに新しい着物を二、三枚、買ってやるから」

「え、ほんとに?
じゃあ、仕方ないわ」

いやいやという顔を作りながらも、紫乃の顔は緩みかけていた。