幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

一番に自分の名前を書けるように教えてもらった。
ただし、名字の〝蒿里〟は無視された。

『涼音はやつがれの妻で、もう蒿里の人間ではないからな』
旦那様は生家での私の扱いを知り、縁を切らせたいようだ。
もっとも、私も家に帰ってくることは許さぬと言われたので、切られているのに等しいが。

「今日はやつがれの字も教えてやろう」

ノートに大きく、旦那様が〝白珱〟と書く。

「これが今の名前だが……」

そのあと、〝白〟の上に横棒を一本足し、〝百珱(びやくえい)〟とした。

「これが本当の名だ。
今は角が折れて一本少ないからから、〝白〟だ」

自分の折れている角を触り、旦那様は嘲笑するようにふふっと笑った。

「そうなんですね」

角が折れて一本少ないから一角少ない白珱というのは、洒落ていて旦那様らしい。

「そうなのだ。
それで、この本当の名は公通以外、誰も知らん。
菰野でさえだ」

「え……」

それってどういうことなんだろう?

「名には言霊が宿る。
本当の名を知っていれば、従わせることができる。
だから、妖は本当の名を隠すのだ」