幾久しくよろしくお願いいたします~鬼神様の嫁取り~

「まあ、菰野さま。
気持ち悪くなどありませんわ」

「そうですわ、そうですわ。
旦那さまと涼音さまはらぶらぶで、目のやり場に困るだけですわ」

船津さんたちに気持ち悪いと思われていないのはいいが、目のやり場に困るのはやはりどうかと思う。

彼らにそう言われたからでもないが、旦那さまと離れに移動した。
菰野さんたち三人は本館を、私たちふたりは離れを使うようになっている。

離れは和建築の母屋とは違い、西洋風だった。
外国人客をもてなすためかもしれない。

「旦那様。
今日も字を教えてください」

ふたりきりになり、いそいそと筆記用具を用意してソファーに座る。
鉛筆とノートは旦那様が私に贈ってくれた。

「涼音は勉強熱心だな」

笑いながら旦那様が斜め前に座る。

「だって、凄く楽しいんですもの」

字もだが、計算も自分でできるようになると面白くて仕方なかった。
今まで学校に行けなくても生きていければそれでいいと思っていたが、勉学の面白さを知ると私も女学校へ行きたかったなと少し、悲しくなった。

今日は最近、少しずつ読んでいる小説の、わからない字を教えてもらった。
字を教えるとき、旦那様は眼鏡をかける。