しかし昨日の彼はただの〝恐ろしい人〟ではなく、普通の人間とは違う……それこそ、人間の常識が及ばない妖かなにかのように見えた。

「あやつは愉悦に浸りながら平気でやつがれを死ぬよりつらい目に遭わせる化け物だ」

ぽつりと旦那様が漏らす。
そういう人間は知っている。
義母と紫乃も愉悦に浸りながら私に折檻していた。
けれど彼はもっと異質な……上手く言葉にできないのがもどかしい。

「あやつにとってやつがれも竜蔵も、……涼音。
お前でさえも愛玩動物か玩具に過ぎないのだ。
自分の言うことを聞かないのなら無理矢理従わせる。
壊れたら代わりはいるから捨てればいい。
そういうヤツだ、公通は」

それを聞いて昨日、彼が手袋を投げ捨てたときにぞっとした理由がわかった。
あの手袋に私は、自分を重ねていたのだ。
〝化け物〟。
旦那様のその言葉がしっくりくる。

「まあ、逆らわねば可愛い愛玩動物だからな。
やつがれもそれなりに可愛がってもらっておる」

それがこの屋敷なのだと気づいた。
この屋敷は旦那様のための、豪華な檻なのだ。

「そういえば菰野さんはどうしているんですか」