「涼音。
あーん」

「あ、あーん」

旦那様がフォークに林檎を刺して差し出してきて、曖昧な笑顔で口を開ける。
人攫いこと人喰らい狒々を退治した翌日、私は旦那様に看病されていた。

「あ、あの。
もう大丈夫だと思うのですが」

まだ多少はくらくらするが、動けないほどではない。
なのに寝ていろとは大げさだ。

「ダメだ。
やつがれが喰らったせいで、血も精気も大量に失っているのだ。
涼音は尋常じゃない量の精気を蓄えているからよかったものの、普通の人間なら死んでいるところだぞ」

心配そうに旦那様は眉を寄せたが、そう言われても私には理解ができない。

少し体調の悪い私とは反対に、昨晩は死にそうだったのが嘘のように旦那様は元気はつらつで、お肌が艶々としている。
精気はもちろん、私の血にもそれだけの回復効果があるらしい。

「もう二度と、あんなことはするな。
弱っているときは理性を失って精気を吸い尽くしそうになる」

「でも……」

それはわかるが、だったら旦那様が死にそうなとき、私はどうすればいいのだろう。
ただ黙って死にゆく様を見ていろというのか。
それは残酷すぎる。