しかし起き上がると左の首筋が痛む。
触ってみて違和感はあるが、鏡がないので確認まではできなかった。

身支度をしようとするが、着物は昨日のあれで泥まみれだ。
こんなものを着ていたら、義母たちから叱責される。
しかし私は、これ一枚きりしか着物は持っていなかった。

「……はぁっ」

ため息をついて納戸の戸を開けた。
手ぬぐいを濡らしてきて、少しでも汚れを落とさねば。
けれど一歩出たところで足になにか当たった。

「あ……」

そこには小さく折りたたまれた着物が置いてある。
それを抱え、きょろきょろと辺りを見渡したが誰もない。

「……ありがとう、ございます」

姿の見えぬ相手に向かって、頭を下げた。
たまにこうやって、誰かが不要になったものを私に恵んでくれる。
それがありがたかった。

もらった着物に袖を通す。
結局、私はお遣いの品をどうしたのだろう?
きちんと紫乃の手に渡っていればいいが、そうでなければ激しい叱責が待っている。
そもそも、私はあれからどうやって帰ってきた?
異形に会ったところから夢だったんだろうか。
それにしてはやはり、咬まれた首筋が痛む。