最初は手もつけられない凶暴な鬼、そんなところに嫁がされるなんて殺されに行くも同じだと思っていた。
けれど旦那様は私にとても優しくしてくれた。
私だけじゃない、今日の彼は自分のせいでみすみす多くの人をあの狒々の犠牲にしてしまい後悔していた。
旦那様は悪鬼などではない、とても優しい鬼だ。

「旦那様をお慕いしております」

また旦那様の身体がびくりと大きく震える。
こわごわと頭を上げた彼は、泣き出しそうにみえた。

「涼音」

今度は旦那様が、私を抱きしめてくる。

「やつがれの可愛い可愛い涼音」

すんと、旦那様が私のにおいを嗅ぐ。

「顔だけではなく、腕にまでこんな酷い傷を負わせてしまってすまぬ」

私の腕を取り、自分がつけた傷だけではなく私自身がナイフで作った傷にまで彼は丁寧に舌を這わせた。

「旦那様……」

「しばし、辛抱しろ。
痕になってしまう」

旦那様に傷を舐められるのは背中に術を刻まれたときのように妙な気分になるが、必死に耐えた。
少しして腕を放したかと思ったら、今度は頬の傷を舐めてくる。

「これで少しは早く、治るだろう」