次第に旦那様の唸り声が小さくなっていく。
そのうち聞こえなくなり、私の腕が牙から解放された。

「すず、ね?」

怯えるように彼が、私の顔を見る。

「はい、涼音です」

それに安心させるように精一杯、微笑みかけた。
自分が私の腕を掴んでいるのに気づき、旦那様の視線がそこへと向く。
酷い状態になっている私の腕を見て、みるみる彼の顔からせっかく取り戻した色が失われていった。

「す、すまない!」

まるで恐ろしいものかのように私の腕を放り出し、凄い勢いでベッドの隅まで下がっていった旦那様が私に向かって土下座する。

「涼音を喰らおうなどやつがれは……!」

深い後悔からか旦那様の身体はぶるぶると震えていた。

「平気、です。
それにこれは、こうなるとわかっていてやった私の責任です」

瀕死の状態の旦那様に私の精気を――血など与えれば、貪られれる可能性があるのはわかっていた。
わかっていて、やった。
どうしても旦那様を、助けたかった。

そっと旦那様を抱きしめる。
背中に触れると怯えたように大きく身体が跳ねたが、かまわずに抱きしめた。
旦那様が愛おしい。