いつまでも同じところを走らせ、弱ったところを食べるつもりだったんだ。
……ううん。
この異形に食べられてしまえば、果てしなく続くと思っていたこの生活も終わるんだろうか。
不意にそんな考えが頭を掠めていく。

「……わ、私を」

それでも震える手で、異形の腕を掴んだ。

「ん?」

「私を、食べてください……」

終わらせてしまいたい、もうなにもかも。
それで、母様のところへ行きたい。

「はぁっ。
やつがれはお前を喰ったりしない」

異形の腕が私を包み込む。
意外なことに異形からは血のにおいではなく、日向の匂いがした。
懐かしく幸せなその匂いで、身体の力が抜ける。

「……しかし」

鼻を突っ込むようにして、異形は私のうなじのにおいを嗅いできた。

「なんかいい匂いがするな、お前」

すんすんと鼻を鳴らし、異形は私のにおいを嗅ぎ続ける。

「最上の美酒よりもさらに、いい匂いだ。
もう……堪らん」

呟いたかと思ったら、異形が私の首筋に歯を立てる。
痛みが私を襲ってきて、そこで意識が途切れた。


目が覚めたら自室として与えられている納戸だった。

「夢……。
いたっ」