「このたびはご協力ありがとう、涼音さん」

「えっ、あっ、全然!」

綱木長官にお礼を言われ、慌ててしまう。

「ああ、可憐な顔にこんな傷を……!」

「いたっ」

白手袋の嵌まる彼の指先が私の右頬に触れ、初めて痛みを感じた。
一度自覚したそれは、ズキズキと痛み続ける。

「白珱。
涼音さんの顔に傷をつけるなんて、どういうつもりだ?」

「……すまぬ」

長官に咎められ、旦那様はふて腐れたようにそっぽを向いた。

「女性の顔に傷を作るなど、あってはならない失態だよ。
十二分に償いをしなさい」

「そのつもりだ」

大仰に旦那様が頷く。

「え、お詫びとか全然!
それよりも綱木長官の手袋を汚してしまいました」

彼の白手袋は私の傷から出た血で汚れていた。

「ああ、汚れたか」

彼の目が自分が着けている手袋へと向く。

「なら、捨てればいいだけだ」

手袋を外し、彼は無造作にその辺に放り投げた。
それを見て背筋がぞっとしたのはなんでだろう?

「これが、例の人攫いかい?」

綱木長官の目が倒れている狒々へと向く。

「昨日も出たんだったかな」