人間だけれど私の精気をわけたら少しくらい復活するんだろうか……?
などと考えたが、そのために菰野さんと接吻しなければならないとなると踏み切れなかった。
旦那様は平気だったのに、なんでだろう?

「しっかし、やっと殺りましたね」

彼らの視線の先、そこには乗ってきた車ほどある、毛だらけで大きな妖が倒れていた。

「人攫いの正体は狒々だったか」

それは猿のような姿をしていたが、毛は血のように赤い。
爪も鋭く、あれが旦那様たちの手を焼かせたのだろう。
そして右肩には五本の、大きな傷跡があった。
旦那様が前に、負わせた傷だ。

「これで一件落着ですね」

「そうだな」

これで帝都を騒がす人攫いはいなくなった。
――でも、攫われた女子供はどこにいったのだろう?

「これはこれは大捕物だったみたいだね」

のんびりした声が聞こえ、そちらを見ると秘書官を連れた綱木長官が歩いてきていた。

「遅い、公通」

彼の顔を見て、旦那様が文句を言う。

「おやおや。
せっかく迎えに来てあげたのに、そういうことを言うのかい?」

「うっ」

おかしそうに長官に笑われ、旦那様は声を詰まらせた。