「だから。
そういうことを言わぬ」

旦那様が爪の先で私の額を突く。

「これから楽しいことをたくさんして、死にたくなくなる未練を作れと言ったであろう?」

「……はい」

厳しい顔で旦那様から注意されてもやはり、私は彼の役に立って死ぬののなにが悪いのかわからなかった。

私から少し精気を吸ったとはいえ、旦那様はまだつらそうだ。

「その辺に菰野も転がっておると思うから、すまぬが拾ってきてくれぬか」

やっとという感じで旦那様が息をつく。
こんな彼を動かせるわけにはいかない。

「わかりました」

周囲を見渡すと大きな水たまりの中に倒れている菰野さんが見えた。
たぶん、操っていた水だろう。

「菰野さん、大丈夫ですか」

「あ、すみません、涼音さん」

そう言いつつも、こちらも起き上がる気力すらなさそうだ。
肩の下から腕を入れ、ずるずると旦那様のいるところまで引っ張っていき、旦那様と同じように車に寄りかからせた。
こちらも傷はあるものの、旦那様よりはずっと軽傷みたいでほっとした。

「すみません、力を使い過ぎちゃって」

へらへらと彼は笑っているが、こちらもつらそうだ。