同時にざばーっと波のような音がした。
そういえば菰野さんは水の異能を持っていると言っていた。

車の中にひとり残され、身を固くする。
菰野さんが援護に出ないといけないなんて、どれだけ相手は強いのだろう。

少しでも情報を拾おうと耳を澄ませる。
やはり、時折上がる悲鳴と、旦那様のものなのかそれに混ざる咆吼意外にはなにもわからない。

……大丈夫。
旦那様が負けるはずがない。
神様、もう一生、パルフェもビクトリアンケーキも食べられなくてかまいません。
だから、旦那様と菰野さんを守ってください!

ひたすら、旦那様たちの無事を祈りながら待つのは生きた心地がしない。

「ぎゃぁぁぁぁーっ!」

不意に、あたりを切り裂くような悲鳴が上がって顔を上げた。
それと同時に靄が一気に晴れていく。
車から少し離れたところに、満身創痍の旦那様と菰野さんが見えた。

「旦那様……!」

勢いよくドアを開け、転がるように駆け寄る。

「旦那様、旦那様」

涙でぐしょぐしょになりながら彼に縋りついた。
身体には無数の傷ができ、破れた軍服が血で赤く染まっている。
しかも胸にひときわ、大きな傷があった。