次の瞬間、がらりと空気が変わり裏道へ入っていた。
一旦停まり、三人で顔を見あわせる。
頷きあったあと、窓を開けた。

「こいよ……。
こい、こい」

呟きながら菰野さんがそろそろと車を進める。
旦那様も私も息を潜め、あたりをうかがった。
車のエンジン音とタイヤが砂利を踏む音、私たちの息づかいしか聞こえない。
ゆっくりと車は進んでいき、緊迫した空気が流れた。

どれくらい、そうしていただろう。

「出ぬな」

旦那様がパチンと見ていた懐中時計を閉める。
家を出てすでに、一時間が経過していた。
けれど人攫いは一向に現れる気配がない。

「警戒しているんですかね」

「かもな。
前回、やつがれに怪我を負わされているし」

今日は諦め、仕切り直して出直してこようと相談し、帰ろうとした――瞬間。

「キーッ!」

甲高い叫び声とともに黒い靄が漂いだした。
あっという間にあたりは真っ暗になった。
どこから出てくるのかとじっと警戒する。

「キーッ!」

「涼音!」

再び声が上がるのと同時に旦那様が私の身体に腕をかけて引き剥がす。
頬になにかが掠め、鋭い痛みを感じた。