「なあ。
なんでコイツ、こんなに怯えてるんだ?」

「そりゃ、あんたが怖いからでしょ」

呆れるようなもうひとつの声が聞こえてきて、辺りが少し明るくなった。

「心外な。
やつがれは気に入らない人間以外には優しいぞ」

「はいはい」

ふたりはのんびりと話していて、まるで緊張感というものがない。
もしかして怒っていないんだろうか。
そろりと頭を上げた瞬間、目の前に顔が現れた。

「おい」

「ひっ」

おかげで反射的に悲鳴が出る。
それに目の前のそれは嫌そうに顔をしかめた。

「こんなところでなにしてるんだ?」

しゃがんで目線をあわせ、私に話しかけてきたのは白髪で片角の異形だった。
ただし、軍服を着てサーベルを下げている。
後ろに見える彼も同じく軍服姿だったが、こちらは若い男性だった。

「最近、人攫いが出るの、知らないのか」

異形の口もとから鋭い牙がのぞく。
目は血のように真っ赤で、私の恐怖を掻き立てた。

「すみません、すみません。
謝りますから、食べないで……」

また、頭を抱えてぶるぶると震える。
きっとこの、異形の妖術に嵌まったんだ。