きょろきょろと辺りを見渡しながらおそるおそる歩を進める。
通り一本向こうは路面電車が走っているはずなのだが、その気配がない。
そろそろ街の明かりが見えてきていいはずなのに、それもなかった。
人っ子一人どころか猫一匹もおらず、ただ月明かりだけが心細く私を照らす。
はあはあと私の荒い吐息だけが響いた。

とにかく早く帰らねば。
気にしている暇などない。
意を決し、また駆け出す。
しかし間の悪いことに霧まで立ち籠めはじめ、最後の頼みの綱だった月まで隠してしまった。
怖くて怖くて、必死に走る。
――と。

「おっと!」

「きゃっ!」

唐突に横道から出てきたなにかにぶつかって、尻餅をついてしまった。

「あ……」

ぶつかったものを確認する。
それは人で、ただし見上げた私には天を突くほど大きく見えた。

「大丈夫か?」

「ひっ」

私などが迷惑をかけてしまい、きっと怒鳴られる。
もしかしたら殴られるかもしれない。
恐怖を感じ、頭を抱えて小さく身体を丸めた。

「すみません、すみません。
申し訳ありません」

そのときがくるのをただ怯えて待ったが。