彼の手が私の手に重なり、甘えるようにすりと頬を擦りよせられる。
それが幸せだった。

「それにしても今日は本来の姿とやらにはなっていないのに、なにをそんなに体力を消費したんですか」

本来の姿で戦うのは体力消費が激しいというのは聞いた。
けれど今日は本来の姿どころか戦闘すらしていない。

「あ……」

長く発して宙を見たあと、私と目をあわせて旦那様は情けなく笑った。

「公通と会ったからな」

「え?」

あれのどこに体力を消耗するようなことがあったんだろう?
綱木長官はとてもいい方で、旦那様も自然に話していた。

「涼音を怖がらせるといけないと思っていわなかったが、ああ見えて公通はとてつもなくおっかないヤツなんだ」

私の目から見て綱木長官は甘い物好きの、ただの人のいいおじさんだった。
異能特別部隊の長官だなんて信じられなかったくらいだ。
……ううん。
きっと彼は旦那様の言うとおり、とても怖い方なのだ。
旦那様を咎めるときの、あの目。
あれは尋常ではない気を発していた。

「やつがれはあやつにだけは絶対に逆らえん。
逆らえば確実に殺される」

旦那様にはどこにもふざけた様子がない。