菰野さんがこちらを振り返り、ハンドルが大きくブレた。
車がぐらりと揺れ、脇の川へと勢いよく向かっていく。

「おい、危ない!」

「す、すみません!」

もう少しで川に落ちるところで、彼は慌ててハンドルを切った。
車はまた正常に走り出したが、胸の動悸が止まらない。

「その。
それってどういうことですか」

気を取り直し、菰野さんが聞いてくる。

「やつがれがあやつに傷を負わせたとき、人ではない手応えがあった」

そうか、旦那様は人攫いと一度、対峙している。
いくら暗闇でも気配や手応えで人かそうじゃないかくらいはわかるのだろう。

「だいたい、その特能がどれくらいの異能持ちか知らないが、並の異能がやつがれに叶うと思っているのか」

「そう、ですね」

合点がいったとばかりに菰野さんが頷く。

「その男と一度、対面させてくれ。
違うとは思うが、一応、確認はしたい」

「わかりました」

急に菰野さんの声が明るくなった。

家に帰ってリビングでふたりきりになった途端、旦那様は後ろから私に項垂れかかってきた。

「……疲れた」

その言葉どおり、声は疲れ切っていた。

「補充させてくれ」