「犯人、特能(とくのう)だそうです」

菰野さんの声は酷く苦しそうだけれど、なんでだろう。

「そうか、特能か。
だから、裏道へ入れたんだな」

旦那様は納得しているし、私も理由がわかった。
〝特能〟とは〝特別異能能力者〟の略だ。
異能持ちは貴族からしか生まれない。
それが常識だ。
しかし稀に、庶民の中から異能持ちが生まれる。
それが特別異能能力者、略して特能だ。
先祖返りだとかいろいろ言われているが、どうして庶民から異能持ちが生まれるのかはまだ、解明されていない。

特能は能力があるとわかった時点で貴族が後ろ盾になり、ある程度の年齢に達すると異能特別部隊へ入る。
しかし、あの綱木中尉の態度からもわかるように扱いが酷く、異能を隠し、バレないように注意しながら暮らしている人たちも少なからずいるという。

そんなわけで特能とは異能持ちなので、あの裏道へ入れたというわけだ。

「絶対彼じゃないですよ。
きっと濡れ衣です」

捕まった人攫いを菰野さんが庇う。
それはどこか、必死だった。

「そうだな。
あの手応えは人じゃなかったし」

「は?」