必死に考えた末、懐から大事にしているお守り袋を取り出した。

「母の形見です」

それには母の生家の紋が刺繍されている。
持つことを許されているのは一族のものだけだ。
母の死後、ほとんどのものが取り上げられたが、これだけは私の手もとに残された。

「……わかりました」

それを見てようやく番頭は私が蒿里の家のものだと信じてくれたようだ。
蒿里家の長女は無能だと界隈では有名な話だからだろう。
それでも渋々な様子で一緒に五桐呉服店に戻って店を開けてくれ、紫乃の欲しがっていた髪飾りを包んでくれた。

「ありがとうございました……!」

頭を下げ、今度は家に向かって駆け出す。
すっかり遅くなってしまった。
妹も義母もさぞかし怒っていることだろう。

「……え?」

しかし、いくら走っても走っても家に着かない。
足は次第に遅くなり、そのうち止まっていた。

「……どういう、こと?」

戸口をぴたりと閉ざした家々がずっと先まで続いている。
振り返った先にも、同じように。
それはどちらも果てがないように見えた。
そんなはずはないのだ、この道はそこまで長く真っ直ぐな一本道ではない。