「なんだと!」

「ひ、ひっ!」

しかし立ち上がった旦那様に怒鳴られ、悲鳴を上げて無様に尻餅をついた。

「よさないか」

一見すると穏やか、しかし実は鋭利なナイフのような声が響き、旦那様は中尉のほうへと踏み出しかけていた足を止めた。

「すまない」

そのまますごすごと私の隣へ座り直す。

「お、俺にこんなことをして許されると……」

「綱木中尉」

同じ声が中尉へと向けられる。
今度はさすがに相手が怒っていると悟ったのか、中尉は口を噤んだ。

「うん。
帝都を騒がす人攫いが捕まってよかったね。
これで一件落着、と」

わざとらしく綱木長官が明るい声で言う。

「じゃ、私は用があるからこれで失礼するよ」

長官が立ち上がり、秘書官にドアを開けてもらって部屋を出ていく。
秘書官が頭を下げて部屋を出、ドアがパタンと閉まった瞬間、我に返った。

「ち、父上、お待ちを……!」

それは中尉も同じだったみたいで慌てて長官を追って取り巻き共々、部屋を出ていった。

「その」

きっと、旦那様は嫌っている綱木中尉に先んじて人攫いを捕まえられ、落ち込んでいる。