あれから旦那様たちは人攫いの捜索をしていたが、いまだ見つかっていない。
旦那様自慢の鼻で血のにおいを追ったが、別の強い香りに消されて上手くいかなかったようだ。

「ここしばらくはなりを潜めているみたいだからいいけれど、人に仇なす妖は敵だからね。
早く捕まえてもらわねば困る」

すーっと綱木長官のまぶたが持ち上がる。
現れた瞳は凍りつきそうなほど冷え冷えとしていた。
それを見て、恐怖で身体がぶるりと震える。

「わかっておる」

それは旦那様も同じみたいで、先ほどと同じ言葉だけれど深刻さが特段重くなっていた。

「今日はわざわざ来てくれてありがとう。
またいつでも遊びに来てね。
ビクトリアンケーキも買ってくるし」

ひとしきり人攫い捜索の今後について話したあと、綱木長官は先ほどまでの人のいいおじさんに戻っていた。

「えっと……。
はい」

手を握って迫られ、曖昧な笑顔を向ける。
軍の施設に気軽になんて遊びに来られるわけがない。
けれど、ビクトリアンケーキは心惹かれるな……。

「涼音さんを幸せにしてあげるんだよ」

「そんなの、公通に言われなくてもするに決まっておる」