「凄く美味しいです、これ」
このあいだのパルフェといい、世の中にはこんなに美味しいものがあるのか。
旦那様から見初められてからずっと、驚きの連続だ。
夢中になって初めてのケーキを食べた。
食べ終わって名残惜しくお皿をテーブルに戻しながら、旦那様が膝に頬杖をついてうっとりとみているのに気づいた。
あまりに浅ましかったのではないかと顔が一気に熱を持つ。
「それで満足したのか?
やつがれの分も食うか?」
旦那様が差し出してきたお皿を見つめる。
旦那様の分まで食べるなんてはしたないとわかっていた。
けれど、わざわざ横浜まで行かないと買えないケーキなんて、次はいつ食べられるかわからないわけで。
「……いただきます」
慎みと食欲を秤にかけた結果、私は食欲を取った。
「可愛いねぇ。
また買ってきてあげよう」
そんな私を見る綱木長官の目は完全に孫を見るそれで、いたたまれなくなった。
「そういえばいつになったら人攫いは捕まえられるのかな?」
長官は相変わらずにこにこと笑っていたが、なぜか背中に寒いものを感じた。
「わかっておる」
旦那様の顔が苦々しげになる。



