彼はしれっと視線を逸らした。

「今日は早起きして、横浜まで買いに行ったんだよ。
だからほら、食べて」

「それで時間どおりに来たのにいなかったのか」

呆れるように旦那様がため息を落とす。

「ビクトリアンケーキは横浜で西洋人がやっているお店でしか売ってないからね」

いくら汽車があるとはいえ、わざわざお菓子を横浜まで買いに行くなんて信じられない。
それとも、他の用事のついでだったんだろうか。
きっとそうに違いない。

じっと綱木長官が期待を込めたキラキラした目で私を見つめる。
それに気圧され気味にフォークを掴み、ビクトリアンケーキとやらがのっているお皿を持ち上げた。

「では、ありがたくいただきます」

「うん」

端のほうをフォークで切ってひとくち。

「ふぉわー」

途端に顔が緩んでいた。
あまりの美味しさに頬が落ちるんじゃないかと心配になって、手で押さえたくらいだ。

「うんうん。
美味しいよねえ」

私の反応に満足したのか、綱木長官が嬉しそうに頷く。
しっとり甘い生地を噛むとじゅわっとコクのあるバターが出てくる。
さらに挟んである、甘酸っぱいソースがいい塩梅に利いていた。