「うん、それがいい」

旦那様の提案に綱木長官が同意する。

「そんな!
申し訳ないです!」

「ほらまた、申し訳ないが出た」

旦那様がため息を落とし、びくりと身体が震えた。

「す、すみません……」

いくら注意されても直らない自分が恥ずかしく、小さくなる。

「字が書けないとなにかと不便であろう?
やつがれが教えてやるから覚えろ」

「は、はい!」

不便なのもあるが、旦那様の奥様なのに字が書けないとか旦那様が恥を掻く。
だったら、頑張って字を覚えよう。

「よろしい」

牙を見せて旦那様がにかっと笑う。
それがとても、嬉しかった。

話が済んだあとは秘書官さんがお茶を淹れてくれた。

「さあさあ。
食べて、食べて。
おまえがやっと嫁を連れてくるというから、買ってきたんだよ」

嬉しそうに笑いながら綱木長官が勧めてくれたのは、またしても謎の物体だった。
つい、旦那様の顔を見上げてしまう。

「公通は甘いものに目がないのだ」

「そうそう。
甘いものが大好きでね。
よく買い食いして秘書官に怒られるんだ」

綱木長官の視線が、部屋の隅で仕事をしていた秘書官へと向く。