本当にこれまでよくしていただいた旦那様に申し訳なくて、頭を下げたのだ。

「でも……」

「涼音が行きたくないとだだをこねて行かなかったわけではなかろう?」

「それはそうですが……」

私を見る旦那様の目は、憐れんでいるようだった。

「行かせてもらえなかったのは涼音のせいではない。
なら、謝罪など不要だ」

「そうですよ。
今までとても酷い扱いを受けてきたようですし」

目のあった綱木長官はわかっているというように頷いた。

「これの奥方になるのですからね。
少々、調べさせていただきました」

「じゃあ……」

また彼がうんと頷く。
もう私が、異能を持たない無能だと知っている。
そのうえで、私と旦那様の婚姻を認めてくださったのだ。

「ありがとうございます……!」

これ以上ないほど深く、再び頭を下げる。
旦那様が私を見初めてくださってから、どんどんいいほうへと向かっていく。
神様……旦那様に感謝した。
いや、旦那様は鬼神様なんだし、神様でいいのかもしれない。

署名は代筆でもいいだろうと旦那様が書いてくださった。
さらに。

「今日から時間ができたとき、字を教えてやろう」