「それなんだけどさ。
この機会におまえの戸籍を作ろうと思うんだ」

「は?」

またしても旦那様が間抜けな一音を発して綱木長官の顔を見る。

「待て。
待て、待て」

しかしすぐに我に返り、痛そうに頭を抱えてしまった。

「いったい、どうしたというのだ?」

「もう私も年だしさ。
私が死んだ後、おまえがどうなるのか心配なんだよ」

本気で案じているのか、長官の顔が険しくなる。

「公通が死んでも、綱木家が滅びるわけではない」

「おまえはあれに仕える気があるのか」

「あー……」

長く発し、旦那様は天井を仰いだ。
〝あれ〟とは綱木中尉のことだろう。
何事か考えるようにしばらくそうしたあと、旦那様はゆっくりと綱木長官へと視線を戻した。

「……ないな」

僅かに旦那様が、苦笑いをする。

「だろう?
おまえを自由にはしてやれないが、私が死んだ後も異能特別部隊に属する限りは人として扱われるようにしようと思う」

「すまないな」

「いや、いい。
あんな倅しか残せなくて、こちらこそすまない」

旦那様と綱木長官はとても信頼しあっているように見えた。