「無断アルバイトの処分についてですが、副会長のご意見を伺えますか?」
生徒会室の一角で、取り巻きの生徒が恐る恐る問いかけていた。
「処分?」
来栖綾華は、微笑みながら紅茶を口に運んだ。その仕草は優雅で、まるで何気ない会話を交わしているかのように見える。しかし、その目には冷淡な光が宿っていた。
「当然、罰は必要でしょうね」
「ですが、生徒会は彼女に猶予を与えたのでは?」
別の生徒が遠慮がちに尋ねると、来栖は目を細めた。
「ええ、確かに機会は与えましたわ。けれど……ねえ、皆さん?」
彼女は周囲を見渡しながら、ゆっくりと微笑む。
「如月さんが本当に、その『機会』を活かせるとお思い?」
生徒達は黙り込む。だがそれも一瞬の事だった。
「……まぁ、正直難しいとは思いますけど」
「ええ、そうですわよね。だって、彼女のような人間には、分不相応なことですもの」
紅茶のカップを静かに置くと、来栖は淡々と続けた。
「学業も平凡、家柄も取り立てて立派ではない。そんな人が、突然『努力すればなんとかなる』なんて、随分と夢見がちですわ」
「……副会長、少し言い過ぎでは?」
「まぁ、ごめんなさい。けれど、現実って厳しいものですわよ?」
優しく諭すような声音だったが、その言葉には明らかな見下しが滲んでいた。
「私、思うのです。生まれ持った環境というのは、やはり乗り越えられない壁がありますわ。努力は素晴らしいけれど、何をやっても無駄なこともある。それなのに、無理をしても仕方ないのではなくて?」
「……でも、如月さんは頑張るつもりなのでしょう?」
「ええ、ええ。だからこそ、見守ってあげましょう? どこまであがけるのか。どこで足を滑らせるのか」
彼女の言葉に、一部の生徒はクスクスと笑い、一方で顔を強張らせる者もいた。
「それで、もしできなかったら……?」
「もちろん、然るべき処分を受けてもらいますわ。ルールを破ったのですもの。当然でしょう?」
「……それで、退学ですか?」
「ええ。規律を守れない人がいると、学校の品位が下がりますものね」
来栖はあくまで上品に、穏やかに微笑みながら言い放った。
鳳城司は、その様子を黙って見ていた。
(おかしい……)
彼は来栖を尊敬していた。厳しいが公正で、誰に対しても毅然としている。そう思っていた。
だが、今の彼女は——。
(まるで、如月を排除しようとしているようだ)
その違和感を言葉にすることはできなかったが、鳳城の眉は僅かに寄せられていた。
