このままではいけない。
 それは何度も頭で考えていたことなのだけど、考えるだけではなく、行動に移すことにした。動かなければ、まとまるものもまとまらないかもしれない。

 自分一人だけの問題だったらもっとのんきに構えていたけれど、現在進行形で好意を寄せてきてくれている人がいる以上、のんびりとはしていられないのだ。

「というわけで、お前を召喚したというわけだ」

「まぁいいんだけどね? むしろ相談するのが遅かったぐらいだよ」

 熱海と読書をして、黒川とビデオ通話した翌日。
 俺は親友の蓮をカラオケに呼び出していた。今日は女子禁制で、男子だけである。もし由布が来たいといっても、俺は断っていただろう。

 そのあたり、由布や蓮は理解してくれていたようで、こいつを遊びに誘ってから今にいたるまで、由布の名前は一度も出てこなかった。

「黒川さんが優介にたぶん告白した――ってところから、僕たちは何も知らないからね。紬と一緒に、優介から話してくるまでは聞かないようにしておこうって決めてたから」

「ひょっとして拗ねてんのかお前?」

「あははっ、心配はしていたけど、拗ねていたわけじゃないよ。どうせ、優介はひとりでモヤモヤして悩んでるんだろうなぁって思ってたから。たぶん、オッケーしなかったんだよね?」

「よくお分かりで」

 たぶん由布も同じように、俺が黒川からの告白に対してどう対応したか気付いているんだろうなぁ。というかむしろ、先に由布がいろいろ考えて、それを蓮に話したという感じか。

「いやー……マジで恋愛って難しいな。みんなどうやって自分のパラメーターを理解してるんだか」

「ゲーム的な考え方だねぇ。でもまぁ、優介の状況はすごく複雑だから、そういうメーターみたいなものがあったら助かりそうだね」

 蓮は苦笑しながら、俺の言葉に同意してくれる。カラオケに来てはいるものの、入室してから三十分、いまだに一曲も歌っていない。俺も蓮も。

「蓮の場合はさ、由布と付き合うときに迷ったりしなかったのか? 本当に、こいつのことを俺は好きなんだろうか――って感じでさ」

 俺がそう聞くと、彼は苦笑しながら「そうだねぇ」と口にする。
 たぶん、俺に説明したいけれど、恥ずかしさが混じっているからあまり言いたくないんだろうな。まぁしっかりのろけてもらうが。

「僕も紬も、人を信じてなかったからね。良いように使われることもあったし、利用されたし、裏切られたし。最初は被害者としての仲間意識ってものが強かったと思うよ。だからたぶん、僕たちの恋愛は参考にならないかもねぇ。でもまぁ、お互いにお互いを幸せにしたいって思いはあったかな」

 語り終えると、蓮は照れ隠しをするようにジュースを飲んだ。
 ちょっと暗い内容も交じっているけど、蓮も由布も過去のこととして割り切っている節はあるし、単純に恥ずかしそうだ。

「……恋愛観とかは人それぞれだとは思うんだけどさ、なんか高校生っぽくないな、それ。結婚する直前みたいな雰囲気じゃん」

「あははっ、言われてみればそうかもしれないね」

 そう言って笑った蓮は「でもさ」と続ける。

「〇〇らしい、とか〇〇っぽいとか、気にする必要はないと思うんだよね。枠に収まることが幸せとは限らないよ。『友達は多いほうがいい』とか、優介もバカげてると思うでしょ? それと一緒でさ、多数派を無理に真似る必要はないと思うんだ、僕は」

 もちろん、それを強制するつもりはないんだけどね――と、蓮は言った。
 自分なりの考えで突き進んでいい、そういうことを言いたいのだろう。周りを気にせずに。普通なんて気にせずに。

 とはいえ、だ。

「黒川さんを振って、望みを残してしまっているような形だから……って、この辺りの事情もまだ話してなかったな。そういえば」

「そうだね、優介がいいなら、聞かせてほしいかな」

「おう」

 こうして、俺はようやく親友に自らの心のうちをさらけ出した。
 黒川さんへの想い、熱海への想い。自分がどうしたいのか、どうなりたいのか、何が幸せで、何が不幸なのか。理解していることから理解していないことまで全部ひっくるめて、話した。

 おそらく、由布がいたらこの話はできなかっただろう。

 蓮の彼女である由布に恋愛感情は一切ないのだけど、そこは男としてのプライドか、あまり弱い部分は見せたくなかった。ただでさえ、彼女には中学のころを見られているから。

 とはいえ、蓮から由布に話が流れてしまうことは想定済み。ただ、面と向かっては話したくないだけだ。


「なるほどなるほど」

 俺の話を聞いた蓮は、二度頷いて、二度同じ言葉を繰り返した。そして、

「もう、優介の中で結論は出ているみたいだね」

 穏やかに笑いながら、そう言った。三十分近く俺の話を真剣に聞き、蓮はそう判断した。

「優介は、熱海さんのことが好きなんだよ。そして同時に、好きになってはいけないと思っているみたいだ」

 まるで病院で診察を下す医師のように、だけどあくまで予想というていで蓮は話を進める。

「だけど、黒川さんが好きなのもまた事実なんだよね。『こっちを選べ』とは、僕の口からは言えないよ。それは優介自身で考えることだ――だけど、さっきも言ったように、優介の中で結論は出ているはずだよ」

 俺の中の結論……ねぇ。本当に出ているのだろうか? 出ていないから、悩んでいるつもりなのだけど。
 どう行動するべきか、否、どう自分が行動したいのか。

 いろいろなしがらみを抜いてみたら、答えはでてくるのだろうか。