走って、走って。――息ができなくなったころに、膝に手を置いて、息をついた。疲れがいっぱいにあふれてくる。息が一気に荒くなった。目から涙があふれた。怒りなのか、悲しみかさえわからない。
また、何も言えなかった。気持ちはつっかえて、何が言いたいかさえわからなくて。
なんで、なにひとつ言い返せないんだろう。自分が情けなくて、悔しかった。もどかしさに、歯を食いしばる。
ひどい、皆、皆、好き勝手言って。私にだって、心があるのに。傷つくのに!私のことばっかり、なんで責めるの!
うずくまって、嗚咽を無理に漏らした。うまく泣けないから、息ができない。泣く真似をして、なんとか息をついた。
――河埜くん。
心の中で、河埜を呼ぶ。優しい笑顔を、思い出した。みどり色の風が、こころに吹き抜ける。その流れに合わせて、息をついた。
俺は、生田さんの方がすごいと思うよ。
あの日の言葉が、よみがえる。自分のことばっかりの自分を、そんな風に言ってくれた、優しい声。
河埜くん、私、そんなんじゃないよ。ただ、意気地なしで、すぐに何も言い返せないだけだよ。私は、そんな、やさしい人じゃない。でも。――河埜くんは、私をそんな風に見てくれるんだね。
こんな自分を信じてくれるんだ。いつもそうだ。風花の中に答えがあることを、信じていつも待っていてくれた。すると、風花は心から、いっぱい気持ちがあふれてきた。伝えたい言葉で、いっぱいになる。
自分は、駄目な子だってことも忘れて――すごく幸せだった。
「好き」
風花は、つぶやいた。河埜くんのことが、本当に好き。こんな私を、肯定してくれた。空を見上げる。紺色に染まりだしたの夜の空に、白くて黄色い光が浮かんでいる。綺麗だった。鼻をすすって、じっと見上げていた。
家に入ると、母親が背を向けて座っていた。
「お母さん」
風花は声をかけた。無視をする背中は、怒っているのがわかった。
「私、好きな人がいるんだ」
ぴくりと空気が揺れる。
「千尋くんじゃないよ。だから、千尋くんに、もう部屋に入られたくないだけなの」
母の背は、動かなかった。風花は、じっとその背を見て、「それだけ」と言って、手を洗いに行った。
結局、その日、母とはもう話さなかった。
また、何も言えなかった。気持ちはつっかえて、何が言いたいかさえわからなくて。
なんで、なにひとつ言い返せないんだろう。自分が情けなくて、悔しかった。もどかしさに、歯を食いしばる。
ひどい、皆、皆、好き勝手言って。私にだって、心があるのに。傷つくのに!私のことばっかり、なんで責めるの!
うずくまって、嗚咽を無理に漏らした。うまく泣けないから、息ができない。泣く真似をして、なんとか息をついた。
――河埜くん。
心の中で、河埜を呼ぶ。優しい笑顔を、思い出した。みどり色の風が、こころに吹き抜ける。その流れに合わせて、息をついた。
俺は、生田さんの方がすごいと思うよ。
あの日の言葉が、よみがえる。自分のことばっかりの自分を、そんな風に言ってくれた、優しい声。
河埜くん、私、そんなんじゃないよ。ただ、意気地なしで、すぐに何も言い返せないだけだよ。私は、そんな、やさしい人じゃない。でも。――河埜くんは、私をそんな風に見てくれるんだね。
こんな自分を信じてくれるんだ。いつもそうだ。風花の中に答えがあることを、信じていつも待っていてくれた。すると、風花は心から、いっぱい気持ちがあふれてきた。伝えたい言葉で、いっぱいになる。
自分は、駄目な子だってことも忘れて――すごく幸せだった。
「好き」
風花は、つぶやいた。河埜くんのことが、本当に好き。こんな私を、肯定してくれた。空を見上げる。紺色に染まりだしたの夜の空に、白くて黄色い光が浮かんでいる。綺麗だった。鼻をすすって、じっと見上げていた。
家に入ると、母親が背を向けて座っていた。
「お母さん」
風花は声をかけた。無視をする背中は、怒っているのがわかった。
「私、好きな人がいるんだ」
ぴくりと空気が揺れる。
「千尋くんじゃないよ。だから、千尋くんに、もう部屋に入られたくないだけなの」
母の背は、動かなかった。風花は、じっとその背を見て、「それだけ」と言って、手を洗いに行った。
結局、その日、母とはもう話さなかった。



