がやがやと騒がしい放課後の教室。結局、俺は昼休みを棒に振り、しかもあの爆弾発言に気を取られ、授業にも集中できなかった。
「リョーベ、珍しいな。そんな不機嫌になんの」
「たまにはいいでしょ?あ、トール、図書館いかない?」
「乗った!」
快諾してくれたトールとともに図書館に向かう。他愛のない話が弾む。日差しが強い。きゅっと目を細めた。
ぐらり、いきなり足元が小さく揺れた。バランスを崩した俺の体はトールにしっかりと支えられた。がっちりとした腕に少しどきっとする。
「ありがと、最近地震多いねぇ」
「うん、そういえばこの前もリョーベふらけて、おわっ⁉」
急に聞こえた悲鳴に横を向くと、トールが大柄な男たちに抑えられていた。
「え、は?」
急に先ほどまでの光が無くなったような錯覚に陥る。何も分からない。ただこれが悪いことであることを除いて。先生の声が耳に押し入ってくる。
「トール!お前が貧民の血を継いでいることは分かっているぞ!この学校をよくも穢してくれたな!だがそれも今日で終わりだ。リョーベは離れておけ」
男の一人が刀を抜く。ギラリと光を跳ね返すそれをトールの首筋に当てた。
「やめろっ!」
駆け寄ろうとした体は何者かに止められる。
(なんでっ)
今日も先生はトールのことを褒めちぎっていたではないか。有望株だとにこやかに笑って。なのに、貧民だと分かった瞬間手のひらを返して殺すのか。こんなに優しい人を、悪人とは程遠い人を。
「いやだっ!なんで、おかしいだろっ」
こぼれた声がみっともなく掠れていて、ようやく自分の体の震えに気付いた。俺の声にトールが反応して顔をこちらに向ける。口を開ける。
「死ね」
頸がころりと落ちた。最期の声を出す間もなく。ようやく体を押さえつけていた何かが離れる。立てなくて血の海に座り込む。俺は先生たちに引き剝がされるまでトールにしがみついて、慟哭した。
思い切りドアを開く。かなりの大きい音にベッドに座り込んでいた彼が顔を上げた。
「リョーべ」
涙の跡で顔がひきつれて、緑色の瞳はこちらを見つめているようだが、焦点が合っていない。痛々しい様子に思わず駆け寄る。そして隣に座る。ぽんぽんとふわふわした栗色の髪をなでてやると、ぎゅっと俺の胸に顔を押し付けてきた。小さな嗚咽とともに冷たい何かがしみ込んでいく。しばらく頭をなで続けるとぽつりぽつりと事件の詳しい内容を教えてくれた。あまりにも悲惨で、残虐で、絶句してしまう。ゆっくりとリョーベの顔が上がる。まっすぐに俺の目を見つめた。
「かたき、とる」
子供のように拙く、でもまっすぐな言葉。
「トールが害なんかじゃなかったって、あいつらに教えてやる。ラルフと一緒にこの国を壊して、後悔させてやる」
悲しすぎる決意にずきんと胸が痛んだ。傷ついている彼をこんな道に連れて行ってもいいのか、ためらう。でも、拒んだらもっと傷つくから、リョーベが壊れてしまうから。
「もっといっぱい人数を集めよう?そうしたほうがきっといい」
彼ほどの知恵は俺にはないけど、少しでも気力を見つけて欲しかった。
「うん。俺は戦略たてるから」
そう言ってリョーベはようやく笑った。
「リョーベ、珍しいな。そんな不機嫌になんの」
「たまにはいいでしょ?あ、トール、図書館いかない?」
「乗った!」
快諾してくれたトールとともに図書館に向かう。他愛のない話が弾む。日差しが強い。きゅっと目を細めた。
ぐらり、いきなり足元が小さく揺れた。バランスを崩した俺の体はトールにしっかりと支えられた。がっちりとした腕に少しどきっとする。
「ありがと、最近地震多いねぇ」
「うん、そういえばこの前もリョーベふらけて、おわっ⁉」
急に聞こえた悲鳴に横を向くと、トールが大柄な男たちに抑えられていた。
「え、は?」
急に先ほどまでの光が無くなったような錯覚に陥る。何も分からない。ただこれが悪いことであることを除いて。先生の声が耳に押し入ってくる。
「トール!お前が貧民の血を継いでいることは分かっているぞ!この学校をよくも穢してくれたな!だがそれも今日で終わりだ。リョーベは離れておけ」
男の一人が刀を抜く。ギラリと光を跳ね返すそれをトールの首筋に当てた。
「やめろっ!」
駆け寄ろうとした体は何者かに止められる。
(なんでっ)
今日も先生はトールのことを褒めちぎっていたではないか。有望株だとにこやかに笑って。なのに、貧民だと分かった瞬間手のひらを返して殺すのか。こんなに優しい人を、悪人とは程遠い人を。
「いやだっ!なんで、おかしいだろっ」
こぼれた声がみっともなく掠れていて、ようやく自分の体の震えに気付いた。俺の声にトールが反応して顔をこちらに向ける。口を開ける。
「死ね」
頸がころりと落ちた。最期の声を出す間もなく。ようやく体を押さえつけていた何かが離れる。立てなくて血の海に座り込む。俺は先生たちに引き剝がされるまでトールにしがみついて、慟哭した。
思い切りドアを開く。かなりの大きい音にベッドに座り込んでいた彼が顔を上げた。
「リョーべ」
涙の跡で顔がひきつれて、緑色の瞳はこちらを見つめているようだが、焦点が合っていない。痛々しい様子に思わず駆け寄る。そして隣に座る。ぽんぽんとふわふわした栗色の髪をなでてやると、ぎゅっと俺の胸に顔を押し付けてきた。小さな嗚咽とともに冷たい何かがしみ込んでいく。しばらく頭をなで続けるとぽつりぽつりと事件の詳しい内容を教えてくれた。あまりにも悲惨で、残虐で、絶句してしまう。ゆっくりとリョーベの顔が上がる。まっすぐに俺の目を見つめた。
「かたき、とる」
子供のように拙く、でもまっすぐな言葉。
「トールが害なんかじゃなかったって、あいつらに教えてやる。ラルフと一緒にこの国を壊して、後悔させてやる」
悲しすぎる決意にずきんと胸が痛んだ。傷ついている彼をこんな道に連れて行ってもいいのか、ためらう。でも、拒んだらもっと傷つくから、リョーベが壊れてしまうから。
「もっといっぱい人数を集めよう?そうしたほうがきっといい」
彼ほどの知恵は俺にはないけど、少しでも気力を見つけて欲しかった。
「うん。俺は戦略たてるから」
そう言ってリョーベはようやく笑った。
