放課後になり私は早速いつもの教室へ行く。
「あら、遅かったじゃない。」
そこには清香の姿があった。着崩した制服、捲られて顕になった細い腕や足。そんな格好で机の上にあぐらをかいている。
「清香、いくら人が来ないと言っても危ないんじゃないの。」
ここは、旧校舎三階の一番端の部屋だ。まず、旧校舎に用がある人などいないうえ、階段が急なので誰も上の階に行きたがらないのである。
「ふふ、大丈夫よ。いつも誰も来ないじゃない。」
私と清香はよくここに放課後集まりある事をしていた。
「それより、いつまでその口調なんですか。清香さん。」
私はニタっと笑いながら清香を見る。すると清香の顔が一変した。
「ああ、こんなのすぐ変えたいに決まってるじゃねぇか。あー、やだやだ。光輝が変えてから合わせようと思ったら、お前全然変えねぇじゃん。」
清香の本性が出てきた。清香はヤンキー界隈では「仮面の使徒」と呼ばれている。私しか仮面の使徒の正体は知らない。いつも黒く長いローブを来て仮面をかぶっている。おまけにこんな話し方でケンカも強い。誰も五月雨財閥の令嬢だと思うはずがない。
「あ、やっと本性出したか。たく、てめぇが先にやらねぇと俺だってやりにくいだろうが。あと、そんなに着崩したら襲うぞ、バカやろうが。」
「お前、襲えるもんなら襲ってみろよ。このノロマ。」
「てめぇ、一昨日俺にケンカ負けただろ。」
「でも昨日は私が一撃食らわしたじゃねぇか。失神しかけてて笑ったぜ。だから、今朝よく寝れたか聞いてあげたじゃねぇか。」
「おかげさまで三途の川渡りかけたし。」
「はは、良かったじゃねぇか。てか、天野川じゃねぇんだな。」
「バカじゃねぇの。死にかけて天野川渡るバカがどこにいるんだよ。」
「いや、お前の名前が天野川だから天野川渡るのかなって思っただけだったつーの。」
「やっぱりバカなんじゃねぇの。」
「は、お前一回やるか。」
「上等じゃねぇか。」
私が答えた瞬間、清香はいきなり怖い形相で殴りかかってきた。
「ははっ、さすが仮面の使徒。パンチのキレがやべぇ。」
「今の避けられるのか。さっすが漆黒の太陽だな。」
「それ、やめろよ。だせぇんだよ。」
「良いじゃねぇか、漆黒の太陽さんよ。かっこいいねぇ、良かったねぇ。」
「がちでうぜぇ。その口黙らせてやる。」
「お、望むところじゃねぇか。」
光輝から素早い連続パンチが繰り出されるが、清香は簡単に避けていく。
「避けてんじゃねぇよ。」
「当たったらいてぇんだよ、ふざけんのか、ああ。」
今は使われていないはずの空き教室にヤンキー達のやり合いの声が聞こえる。もし、この声を誰かが聞いてもまさか清香と光輝だとは思わないだろう。一通り殴り合いを終えた二人は床に寝転んだ。
「はは、あたし強くなったろ。お前ももう下っ端の奴らに負けないんじゃねぇか。」
「ははっ、そうだといいなぁ。前に二人でやべぇほどボコされたからなぁ。」
「仮面取られなくてよかったな、漆黒の太陽さんよぉ。」
「それはお前もだろ、仮面の使徒さんよぉ。」
静かな放課後に下品な笑い声が響いた。