ここ聖清学園には二人の主人公がいる。小説に出てくるようなキラキラしたザ・主人公だ。
「ご機嫌よう。」
噂をすればまず一人目。リムジンから赤いカーペットを垂らし豪快に登校してきた。彼女はさぞ有名な五月雨財閥のご令嬢、五月雨清香(さみだれきよか)だ。執事を横に付かせ、堂々と歩く姿はまさに漫画でよくいるお嬢様そのものだ。
「清香様だ。ああ、本当に美しい。まさに、月の精霊だ。」
日の光を浴びて輝く姿は清香二つ名にふさわしい。皆が清香に目を奪われているともう一台のリムジンが後ろからやってきた。
「送迎ごくろう。では、行ってくるよ。」
現れたのはまたも有名な財閥、天野川財閥のご子息、天野川光輝(あまのがわこうき)だ。爽やかスマイルを周囲に振りまきながらド派手な登校。
「光輝様よ。ああ、なんて綺麗でかっこいいのかしら。」
数多の人が集まる中、一目で清香を見つけ出し駆け寄った。
「おはよう清香。」
「ご機嫌よう、光輝さん。昨夜はよく眠れたかしら。」
「ああ、おかげでよく眠れたよ。ここまで眠ったのは久しぶりだって程にね。」
「それはとても良かったですわ。」
二人とも容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、温厚篤実。まさに漫画でよく見るような主人公格である。あの二人は欠点と言葉からかけ離れている存在なのだ。
「ああ、光輝様と付き合えたらどれだけ幸せなことでしょう。きっと毎日が薔薇色に染まりますわ。」
「そのような発言はお二人の前ではよしなさい。なにせ、あのお二人は婚約なさっているのよ。」
「俺だって清香様と付き合いたいよ。来世では絶対に俺が幸せにしてやる。」
この光景は日常茶飯事である。二人も慣れているのか気にすることなく校舎の中へ消えていった。二人仲良く並びながら。さっきどこからか聞こえてきた声を思い出す。あの二人は婚約してる。主人公にはヒロインしか似合わないと言うことだろう。親同士の仲がとても良く親が決めたことだと言う噂を聞いた。でも、当の本人達もあの様子である。きっと親承認の両思いなのだろう。少し話が変わるが、あの完璧人間達が二人きりでいる時は何をして、何を話しているのだろうか。また、お互いどんな風に接しているのだろうか。きっと、一般ピーポーには想像がつかないような熱烈な恋物語が繰り広げられているのだろう。これは一般人には関係のないようなおとぎ話のような世界なのだから。