清香の案内で集い場へ向かう。道中すれ違う人たちの顔には活気がなかった。私はきょろきょろと周りを見渡していた。
「普段はこんな感じじゃない。今はあの件でみんな疲れているだけだ。」
あの件と言うのは聖清市ヤンキー暴走事件のことだろう。あの後全国ニュースにも取り上げられるような大惨事となっていた。一般市民も巻き込まれた抗争。この抗争で一般市民を含めた怪我人は三百人もいた。幸い死者は出なかったが、清香のように骨が折れるような重傷者から、私のように頬を殴られただけの軽傷者まで。きっと、このチームの中でもたくさんの怪我人が出てしまったのだろう。私は何も言えなかった。
「着いたぞ。」
清香が来たのは一番奥の部屋。清香がノックをすると返事が聞こえてきた。
「誰だ。」
「仮面の使徒だ。話があるから入れてくれ。」
重そうな扉が開く音と共に中から人が現れた。
「何のようだ。抜けたいと言う話なら聞かないぞ。」
大きくて、ゴツい、怖い顔の人だ。
「はっ、それとは真逆の話だな。こいつはあたしの友なんだが、あたしに憧れたらしい。このチームに入りたいとうるさくてなぁ。試験を受けさせてやってくれないか。ただ、あたしの友達だからと言って手加減するなよ。」
清香の説明が終わると私をまじまじと見つめる。黒いローブを着て、黒いマスクを付けているため私が天野川光輝だとバレることはないだろう。
「まったく、最近の若者は姿を隠すのが流行っているのか。…入れ。仮面、ここからは俺が面倒を見る。お前はドームにでも行って体動かしてこい。」
「分かった、サンキュ。」
清香は私を置いてどこかへ行ってしまった。
「あの、ドームって何ですか。」
私が恐る恐る聞く。清香は治りたてなのだから、また危険なことに首を突っ込ませたくない。
「あぁ、ドームはドームだよ。チームメンバー同士でバトルするんだよ。体が鈍らねぇようになっ。」
ここまで来る道中見た感じだと、ゴツくて屈強な男たちが多かった。あんな腕で殴られでもしたら細い清香の骨などポキっとなるだろう。
「あの、危なくないんですか。き…あの人は怪我が治りたてで、その。」
私が一生懸命説得する。もう一度でも、清香の骨が折れた暁には、清香は外室禁止になるだろう。
「大丈夫だよ。だって、うちのメンバーに仮面が負けたこと見たことねぇから。あいつめっちゃ強いぞ。仮面に勝てるのは、この俺吉様と副総長くらいだな。」
その言葉に一瞬頭が真っ白になる。あの、いかにも簡単に壊れてしまうガラス細工で出来ているような体でどうしてそこまで戦えるのだろうか。
「てか、お前さ。仮面の彼氏か何かなの。ずっと仮面のこと気にしているみたいだけど。」
総長の質問に危うく「婚約者です」と答えることろだった。一般人に婚約者は居ないと言う事を思い出し口を塞いだ。
「えっと、そんな感じなような、そんな感じではないような。その、何と言ったら良いのか分かりません。」
動揺で頭がいっぱいになり、うまく言葉を紡ぐことが出来ない。
「まあ、なんでも良い。早速試験を始めるぞ。」
吉がニヤッと笑った。
「お前は何故俺たちのチームに入りたいんだァ。」
語尾を強めながら吉は問いかけて来た。これで怯んでしまったらきっと試験は不合格なのだろう。
「私には守りたい人がいます。その人を守るためにその人のそばにいたい。そして、その人を守れるような強い力が欲しい。」
私は胸を張り、はっきり堂々と本当の気持ちを述べた。
「ふぅん、それが仮面だと。まぁ良いだろう、取り敢えず第一問は合格だ。次に行くぞォ。…お前がもし凄まじい力を手に入れたら何に使う。」
私は動じることなく瞬時に答える。
「先ほども述べた通りです。私は大切な人を守るために力を使います。誰かを傷つける力はいりません。守りたいんです。」
真剣な顔で吉は私の話を聞く。
「ふん、誰も傷つけることなく大切な人を守るだと。それは綺麗事だな。誰かを守るためにその拳を振るうならば、誰かを傷つけることになると言う覚悟をしろ。綺麗事なら誰でも言える。だが、誰も出来ない。矛盾が発生するからだ。守りたいなら、戦い、傷つけ合うしかないんだ、分かったか。」
「はいっ、肝に銘じます。」
これは選択をミスしたらしい。これはもう落ちるかもしれない。もしも、落ちてしまったら清香に堂々と顔向け出来ないな。そっと見守るしか出来なくなってしまう。私は真剣な目で吉の目を見つめる。
「ふぅ、俺にそんな目を向けてくるのはお前が初めてだ。お前、なかなか根性あるじゃねぇか。よし、二問目も合格にしてやろう。」
吉は私の失態を無かったことにしてくれたらしい。このことで清香がこのチームに所属している理由が分かった気がする。総長の根が優しいからだ。そんな総長に付いて行くと言う事は、きっとここのメンバーも心優しい人達なのだろう。
「最後の質問だ。もしも、お前が大切な人を守るために人を殺めてしまったらどうする。」
流石に答えられなかった。「清香を守るためなら何でもする。」と自分の中では思っていたが、命に関わるとなるとそれは別かもしれない。
「私には…分かりません。第一に人を殴った事すらありません。もしも、私の拳が誰かを殺めてしまったら、私はどうしたら良いのでしょう。私には分かりません。」
ほとんど声が出ていなかった。息を吐くようにそっと話すこの声を吉は静かに聞いてくれていた。
「そうだろうな。俺すら、怪我させちまったくらいだからな。俺も答えなんて分からねぇ。ただ一つ言えることは、自分の罪の重さを知ることだけだ。一生背負っていく覚悟はあるか。」
吉はさっきまでとは比べ物にならないくらいの真剣な顔で問いかけて来た。
「今は何とも言えませんが、その時が来ないことを祈ります。でも、もしその時が来てしまったら、その時が来る前にしっかりと覚悟しておきます。」
自分でも何を言っているのか分からないくらい言葉がぐちゃぐちゃだった。でも、吉はニカッと笑いかけてくれた。
「分かった。なら、面接試験は終わりだ。結果は、…合格だ。良かったな。この後は実技試験だ。ドームに行くぞォ。」
吉は張り切っている様子で私の方に腕を置いてきた。
「正直、俺はお前が戦えるやつだと思っていない。もし、お前が戦えるようになりたいならこの吉様が教えてやろう。どうだ、俺の訓練を受ける覚悟はあるかァ。」
「もちろんです。よろしくお願いいたします。」
私の返事が気に入ったのか吉はまたニカッと笑った。
「普段はこんな感じじゃない。今はあの件でみんな疲れているだけだ。」
あの件と言うのは聖清市ヤンキー暴走事件のことだろう。あの後全国ニュースにも取り上げられるような大惨事となっていた。一般市民も巻き込まれた抗争。この抗争で一般市民を含めた怪我人は三百人もいた。幸い死者は出なかったが、清香のように骨が折れるような重傷者から、私のように頬を殴られただけの軽傷者まで。きっと、このチームの中でもたくさんの怪我人が出てしまったのだろう。私は何も言えなかった。
「着いたぞ。」
清香が来たのは一番奥の部屋。清香がノックをすると返事が聞こえてきた。
「誰だ。」
「仮面の使徒だ。話があるから入れてくれ。」
重そうな扉が開く音と共に中から人が現れた。
「何のようだ。抜けたいと言う話なら聞かないぞ。」
大きくて、ゴツい、怖い顔の人だ。
「はっ、それとは真逆の話だな。こいつはあたしの友なんだが、あたしに憧れたらしい。このチームに入りたいとうるさくてなぁ。試験を受けさせてやってくれないか。ただ、あたしの友達だからと言って手加減するなよ。」
清香の説明が終わると私をまじまじと見つめる。黒いローブを着て、黒いマスクを付けているため私が天野川光輝だとバレることはないだろう。
「まったく、最近の若者は姿を隠すのが流行っているのか。…入れ。仮面、ここからは俺が面倒を見る。お前はドームにでも行って体動かしてこい。」
「分かった、サンキュ。」
清香は私を置いてどこかへ行ってしまった。
「あの、ドームって何ですか。」
私が恐る恐る聞く。清香は治りたてなのだから、また危険なことに首を突っ込ませたくない。
「あぁ、ドームはドームだよ。チームメンバー同士でバトルするんだよ。体が鈍らねぇようになっ。」
ここまで来る道中見た感じだと、ゴツくて屈強な男たちが多かった。あんな腕で殴られでもしたら細い清香の骨などポキっとなるだろう。
「あの、危なくないんですか。き…あの人は怪我が治りたてで、その。」
私が一生懸命説得する。もう一度でも、清香の骨が折れた暁には、清香は外室禁止になるだろう。
「大丈夫だよ。だって、うちのメンバーに仮面が負けたこと見たことねぇから。あいつめっちゃ強いぞ。仮面に勝てるのは、この俺吉様と副総長くらいだな。」
その言葉に一瞬頭が真っ白になる。あの、いかにも簡単に壊れてしまうガラス細工で出来ているような体でどうしてそこまで戦えるのだろうか。
「てか、お前さ。仮面の彼氏か何かなの。ずっと仮面のこと気にしているみたいだけど。」
総長の質問に危うく「婚約者です」と答えることろだった。一般人に婚約者は居ないと言う事を思い出し口を塞いだ。
「えっと、そんな感じなような、そんな感じではないような。その、何と言ったら良いのか分かりません。」
動揺で頭がいっぱいになり、うまく言葉を紡ぐことが出来ない。
「まあ、なんでも良い。早速試験を始めるぞ。」
吉がニヤッと笑った。
「お前は何故俺たちのチームに入りたいんだァ。」
語尾を強めながら吉は問いかけて来た。これで怯んでしまったらきっと試験は不合格なのだろう。
「私には守りたい人がいます。その人を守るためにその人のそばにいたい。そして、その人を守れるような強い力が欲しい。」
私は胸を張り、はっきり堂々と本当の気持ちを述べた。
「ふぅん、それが仮面だと。まぁ良いだろう、取り敢えず第一問は合格だ。次に行くぞォ。…お前がもし凄まじい力を手に入れたら何に使う。」
私は動じることなく瞬時に答える。
「先ほども述べた通りです。私は大切な人を守るために力を使います。誰かを傷つける力はいりません。守りたいんです。」
真剣な顔で吉は私の話を聞く。
「ふん、誰も傷つけることなく大切な人を守るだと。それは綺麗事だな。誰かを守るためにその拳を振るうならば、誰かを傷つけることになると言う覚悟をしろ。綺麗事なら誰でも言える。だが、誰も出来ない。矛盾が発生するからだ。守りたいなら、戦い、傷つけ合うしかないんだ、分かったか。」
「はいっ、肝に銘じます。」
これは選択をミスしたらしい。これはもう落ちるかもしれない。もしも、落ちてしまったら清香に堂々と顔向け出来ないな。そっと見守るしか出来なくなってしまう。私は真剣な目で吉の目を見つめる。
「ふぅ、俺にそんな目を向けてくるのはお前が初めてだ。お前、なかなか根性あるじゃねぇか。よし、二問目も合格にしてやろう。」
吉は私の失態を無かったことにしてくれたらしい。このことで清香がこのチームに所属している理由が分かった気がする。総長の根が優しいからだ。そんな総長に付いて行くと言う事は、きっとここのメンバーも心優しい人達なのだろう。
「最後の質問だ。もしも、お前が大切な人を守るために人を殺めてしまったらどうする。」
流石に答えられなかった。「清香を守るためなら何でもする。」と自分の中では思っていたが、命に関わるとなるとそれは別かもしれない。
「私には…分かりません。第一に人を殴った事すらありません。もしも、私の拳が誰かを殺めてしまったら、私はどうしたら良いのでしょう。私には分かりません。」
ほとんど声が出ていなかった。息を吐くようにそっと話すこの声を吉は静かに聞いてくれていた。
「そうだろうな。俺すら、怪我させちまったくらいだからな。俺も答えなんて分からねぇ。ただ一つ言えることは、自分の罪の重さを知ることだけだ。一生背負っていく覚悟はあるか。」
吉はさっきまでとは比べ物にならないくらいの真剣な顔で問いかけて来た。
「今は何とも言えませんが、その時が来ないことを祈ります。でも、もしその時が来てしまったら、その時が来る前にしっかりと覚悟しておきます。」
自分でも何を言っているのか分からないくらい言葉がぐちゃぐちゃだった。でも、吉はニカッと笑いかけてくれた。
「分かった。なら、面接試験は終わりだ。結果は、…合格だ。良かったな。この後は実技試験だ。ドームに行くぞォ。」
吉は張り切っている様子で私の方に腕を置いてきた。
「正直、俺はお前が戦えるやつだと思っていない。もし、お前が戦えるようになりたいならこの吉様が教えてやろう。どうだ、俺の訓練を受ける覚悟はあるかァ。」
「もちろんです。よろしくお願いいたします。」
私の返事が気に入ったのか吉はまたニカッと笑った。



