ずっと寝ていたせいで痛い体を解すためベッドから降りる。今日で待ちに待った外室許可が下りるのだ。軽くストレッチをし、身支度を整える。
「おはようございます、お父様。」
リビングルームに行くと、吾郎がソファーに腰を下ろしながらニュースを見ていた。聖清市ヤンキー暴走事件についてだった。
「おはよう清香、もう体は大丈夫かい。」
吾郎は心配した顔で清香を見つめる。
「ええ、もちろんですわ。」
「それなら良かった。今日から外室しても良いが、無茶をしないこと、いいな。」
「分かりましたわ。」
今日は土曜日なので学校はない。
「本日のご予定は。」
私が外に出ようといているのを見た執事が問いかけていた。
「今日は光輝さんのお家に行くわ。久しぶりに会いたいから。」
「了解いたしました。気をつけて行ってらっしゃいませ。」
「ええ、お父様に伝えておいて。」
私は玄関を飛び出した。光輝の家は私たちの家の向かい側だ。私が玄関に着くと、天野川家の執事が扉を開けてくれた。
「ご機嫌よう、光輝さんはどこにいますの。」
「光輝様は地下一階のトレーニングルームにおります。」
「ありがとう。」
エレベーターに乗り込み地下室へ向かう。トレーニングルームの近くに行くと凄まじい音が響いていた。何をしているのか気になり早足で近づくと廊下に人影が見えた。
「清香ちゃん、体調はもう大丈夫かい。」
そこには、誠也が立っていたのだ。
「ご機嫌よう。ええ、とても元気ですわ。」
「それは良かった。清香ちゃんが怪我をしてから光輝がずっとこの調子でね。」
誠也に促され扉の隙間から中を覗く。そこには汗を流しながらひたすらサンドバッグを殴り続ける光輝の姿があった。
「清香ちゃんを守るんだって言って。ずっと鍛え続けているんだよ。」
「失礼ですが、何故中に入らないのですか。」
「光輝を前にするとつい厳しく接してしまう。だから、私はここで見ている方が良いのだよ。息子の努力を否定したくない。勉強しろ、とか言っていたら集中できないだろう。」
この対応が誠也なりの気遣いだと知り、少し心を撫でおろす。清香は何かがバレてしまい見張られてるのだと思ったからだ。
「誠也お父様は光輝さんがとても大好きなのですね。」
誠也が頭を掻いた。
「そんなことを言われたのは、その、初めてだな。」
赤くなった誠也の顔を見つめていると、彼は私の頭を撫でた。
「まったく、大の大人を誂うなんて。大きくなったな。」
そう言い残し去って行った。後ろ姿を見送った後トレーニングルームへ入った。
「ご機嫌よう、光輝さん。」
私が声をかけた瞬間に振り向いた。
「清香、もう体は大丈夫なの。」
今日何回目だろかと言う質問にもう一度答える。
「ええ、元気よ。とっても体を動かしたいわ。」
「それなら安心したよ。今日、約束守ってくれるよね。」
「ええ、そのために迎えに来てあげたでしょう。その前に、私があなたとの約束を破ったことはないはずよ。」
「それもそうだね。」
光輝がにこにこと笑いかけてくる。大丈夫、きっと光輝は試験に落ちるから。